アトロピンは、もともと植物(ベラドンナなど)に含まれる成分から 生まれた薬で、抗コリン薬(副交感神経遮断薬)に分類されます。 体の中の「ムスカリン受容体」という部分に結合して副交感神経のはたらきを抑え、瞳孔を広げる(散瞳)・分泌(唾液や汗など)を抑える・心拍数を上げる・ 胃腸の動きをゆるめるなど、全身にさまざまな作用をあらわします。
作用が強く、使い方によって「役立つ薬」にも「危険」にもなるため、医師の指示・用法用量を守って使うことがとても大切です。 近視の進行抑制に使う低濃度アトロピン点眼(0.025%=リジュセア®ミニ)も、このアトロピンをごく薄い濃度にしたものです。
点眼薬としてのアトロピン
目薬(点眼薬)としては、主に次のような場面で使われます。
- 検査:瞳孔を広げ、ピント合わせ(調節)を一時的に止めて、 目の奥や正確な度数を調べる(調節麻痺下屈折検査など)
- ぶどう膜炎などの目の病気の治療
- 近視の進行抑制:低濃度(0.025%など)に薄めた点眼。 検査用の高い濃度とは別ものです(くわしくは低濃度アトロピン点眼薬とは)
注射薬としてのアトロピン
アトロピンには注射薬もあり、主に病院・救急の場面で使われます。
- 脈が遅くなりすぎたとき(徐脈)に、心拍数を上げる
- 麻酔の前投薬(だ液などの分泌を抑える)
- 有機リン剤(殺虫剤・農薬・サリンなど)の中毒の解毒薬
- 胃腸・胆管・尿管などの強い痙攣(けいれん)による痛みをやわらげる
このように、アトロピンは命にかかわる場面でも使われる重要な薬です。 それだけ作用が強い、ということでもあります。
⚠️ 飲んではいけません(誤飲・過量はなぜ危険?)
アトロピンは全身に強い抗コリン作用をもつため、飲んだり、決められた量より多く使ったりすると「中毒」を 起こすことがあります。点眼薬であっても、誤って飲んだり、たくさん点しすぎると 全身に吸収されて危険です。とくに子どもは少量でも影響が出やすいので 注意が必要です。
主な中毒の症状(抗コリン中毒):
- 口やのど・皮膚の強い乾き、顔のほてり・赤み
- 瞳孔が開いてまぶしい・かすんで見える
- 脈が速くなる、体温が上がる、尿が出にくい
- ひどいと興奮・幻覚・もうろう・けいれんなど
安全のために:用法用量を守り、自己判断で量を増やさない/子どもの手の届かない所に保管し、飲み物と間違えない/ 点眼後は目頭(涙のたまる所)を軽く押さえると全身への吸収を減らせます。 万一飲んでしまった・入れすぎたときは、すぐに医療機関や中毒110番(日本中毒情報センター)に相談してください。
使えない・注意が必要な場合(禁忌)
アトロピンは、緑内障(とくに閉塞隅角)・前立腺肥大などで尿が出にくい人・腸の動きが止まる病気(麻痺性イレウス)などでは 使えない(禁忌)とされています。近視抑制の低濃度点眼でも、目や体の状態によっては 使えない・注意が必要な場合があるため、使用の可否は必ず眼科医が判断します。
まとめ
アトロピンは、近視抑制の低濃度点眼から、救急で使う注射薬まで、幅広く使われる作用の強い薬です。だからこそ、医師の指示どおりに使い、飲まない・増やさない・子どもの手の届かない所に保管することが大切です。近視抑制での具体的な使い方・効果・副作用は低濃度アトロピン点眼薬とはをご覧ください。お子さまの近視の進み方の目安は予測ツールで試算できます。
参考文献
- (医療用医薬品 添付文書) アトロピン注/アトロピン硫酸塩注(適応: 麻酔前投薬・迷走神経性徐脈・有機リン剤中毒の解毒・胃腸の痙攣性疼痛 ほか/禁忌・用法用量). KEGG MEDICUS(医療用医薬品情報). [リンク]
- MSDマニュアル プロフェッショナル版 抗コリン性化合物(抗コリン中毒の症状と対応). MSD Manuals. [リンク]
- 公益財団法人 日本中毒情報センター 中毒110番(誤飲・誤用など急性中毒の電話相談). 日本中毒情報センター. [リンク]
- Yam JC, et al. Two-Year Clinical Trial of the Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP Study). Ophthalmology. 2020.