唾液などから調べる近視の遺伝子検査(「近視遺伝子チェック」など)が 国内でも提供されています。これは近視に関わる遺伝子のうち複数の場所(SNP)を調べ、近視の「遺伝的なりやすさ」を目安として示すものです。ここでは、その結果をどう読めばよいか、何がわかって何がわからないかを整理します。
検査でわかること
多くの検査は、GWAS(大規模なゲノム解析)で近視と関連が報告された複数の遺伝子多型(SNP)を調べ、その組み合わせから「遺伝リスク」を5段階などで示す形をとります。 たとえばある国内サービスでは、GJD2・RASGRF1・ZC3H11B・HIVEP3・NFASC・FRMD4B・AKAP13 などの9つのSNPを調べ、「近視でない日本人集団」と比べた 遺伝リスクを段階で報告しています。
各遺伝子にはオッズ比という数字が添えられることがあります。これは 「そのリスクタイプを持つ人で、近視の起こりやすさが何倍か」という集団レベルの目安で、1より大きいほど関連が強いことを意味します (多くは1.2〜1.9倍程度)。
検査でわからない・注意すべきこと
⚠ 遺伝子検査は診断ではなく「参考情報」です。結果は将来近視になるか どうかを確定するものではありません。
- 予測の精度には限界がある:現在わかっている遺伝子をすべて足しても、 近視のばらつきのうち説明できるのは一部です(Hysi ら 2020 では遺伝率の約18%、 予測の当たり具合を示すAUCは約0.75)。「高リスク」でも近視にならない人、 「低リスク」でも近視になる人がいます。
- 環境が結果を左右する:近視は遺伝と環境の組み合わせで決まります。遺伝子と近業(教育年数)が交互に作用するという報告もあり (Fan ら 2016)、遺伝リスクが低くても近業過多などで近視化しえます。
- 「治療方針が変わる」検査ではない:現時点で、遺伝子検査の結果によって 近視進行抑制治療の選び方が大きく変わるという確立した根拠はありません。
- 調べるSNPは検査ごとに異なる:採用しているSNPやリスク計算法は サービスによって違い、結果の意味も一律ではありません。
国際的な近視の遺伝に関する総説(IMI Myopia Genetics Report, Tedja ら 2019)でも、 遺伝子スコアによる予測は研究段階で、現時点では臨床で個人の近視発症を 確実に予測する段階にはないとされています。
結果をどう受け止める?
遺伝子検査の結果は、「体質の目安を知り、生活を見直すきっかけ」として 活用するのが現実的です。結果にかかわらず、近視管理の基本は変わりません。
- 1日2時間程度の屋外活動
- 近業の距離と休憩(20-20-20ルールなど)
- 眼軸長を含む定期的な眼科検査
- 進行が速いときは近視進行抑制治療を眼科で相談
「高リスク」と出て不安になったり、「低リスク」と出て油断したりせず、実際の目の状態(屈折度数・眼軸長)を定期的に確認することが何より大切です。 気になる結果が出た場合は、近視管理を行う眼科にご相談ください。
近視と遺伝の全体像は近視は遺伝する?、 関わる遺伝子の中身は近視に関わる主な遺伝子で解説しています。お子さまの数値で進行の目安を試算したい場合は予測ツールもご利用ください。
参考文献
- Kiefer AK, et al. Genome-wide analysis points to roles for extracellular matrix remodeling, the visual cycle, and neuronal development in myopia. PLoS Genetics. 2013;9(2):e1003299. 原著リンク
- Tedja MS, et al. IMI – Myopia Genetics Report. Investigative Ophthalmology & Visual Science. 2019;60(3):M89-M105. 原著リンク
- Hysi PG, et al. Meta-analysis of 542,934 subjects of European ancestry identifies new genes and mechanisms predisposing to refractive error and myopia (336 loci). Nature Genetics. 2020;52(4):401-407. 原著リンク
- Fan Q, et al. Meta-analysis of gene–environment-wide association scans accounting for education level identifies additional loci for refractive error. Nature Communications. 2016;7:11008. 原著リンク
- 横浜近視予防研究所株式会社 近視遺伝子チェック(近視の発症リスクを判定する方法。特許 2020-569530)。9SNP: HIVEP3/NFASC/ZC3H11B/CNTN4-CNTN6/FRMD4B/LINC02418/GJD2/RASGRF1/AKAP13。 近視チェック 公式サイト. リンク